最愛~一夜の過ちから御曹司の溺愛が始まりました~
父の目は私と兄を見ていて、その目からはうっすらと涙が浮かんでいた。
「……お……か……えり」と父がゆっくり言葉を紡ぐ。
小さくかすれた声だったけど、私にははっきり聞こえた。
「ただいま」
両手で父の手を握って言葉を返す。
目から涙が止めどなく溢れてきた。
ああ、神様、父を助けてくれて本当にありがとうございます。
それからしばらくして父はまた眠ったが、兄は安堵した様子で私に言葉をかけた。
「体力が戻れば起きている時間も徐々に長くなる。脳に損傷がなかったし、事故後すぐにここに運ばれたのがよかったのかもしれない」
「運が良かったのかも」
父が意識を戻したのが嬉しくて笑って頷くと、彼もニコッと微笑んだ。
「香澄が来たから、きっと父さんは頑張ったんだよ。ずっと会いたがっていたんだ」
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