恋は思案の外



「あ、おい!いろは!」



自分の考えが正しかったことにホッとして思わず店長に泣きながら抱きつこうとしたら、少しだけ、怒ったようなような声を出したヒト科はわたしの手首をぐいっと引っ張った。





「っ、」





引っ張られた拍子にぐんっと近づいたわたしとヒト科の距離に、思わずごくりと息を呑む。





見上げた先のヒト科の、男の人特有の喉仏だったり。顎のラインだったり。


わたしの手首を掴んだ、筋張った武骨な手だったり。





――男らしい骨格に、ちょっと。




「ち、ちかい……っ」

「あ?」

「近いってば!半径1m以内に近付くな!離れろ!」



掴まれたまんまの自身の左手をぶんぶんと振ってみたり、空いてる右手で男の胸板をぐいぐい押してみたりしたけど全然動かない。


それどころか、



「あぁ。」



面白そうにニヤリと上がった唇から、次に何を発するのかと思えば。




「おい、てんちょー。いろはに何かしたらタダじゃおかねぇからな」

「って、ちょ、はぁ!? アンタ何言ってんの!!?」

「コイツは俺の。」

「ふっざけんな!!! すね毛全部抜いてやろうか!!!!?」



ふざけたことしか言わない男から助けを求めるように縋るように店長を見る。


店長は一瞬だけ目を見開いたけど、次の瞬間には溜息と満面の笑みを零し、



「はいはい。何もしないよ」

「店長がわたしを見捨てた!」



華麗な降参ポーズまで披露してくれた。



お願いです!そんなのいらないんで助けてください!



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