セカンド レディー






「行ってきます」




月日は流れ、あたしは小学3年生になった。


憂鬱な気持ちのまま始まる朝。



「柚姫、行ってらっしゃい」



笑顔で見送ってくれるママの姿に、ほんの少しだけほっとする。


ママはいつも家にいる。そして、あの男は仕事にいくため、暴力を振るわれることはない。


ママも本当は働きたいのかもしれないけれど、あの男がそれを許さなかった。



「今日も来たのかよ!」


「お前、本当気持ちわりぃよな!」



学校に着くと、あたしに向けられる視線と声。



今日も机には

"学校くんな!"

"化け物"

"きもい"


の文字が綴られている。



僅かに唇をかみ締めて、落書きされた席に座る。





「お前、なんで泣かねんだよ!?」


「"私は虐められて可哀想な子です"って言ってみろよ!」



男子たちの言葉に噛み締めた唇を緩め、嘲笑うかのように軽く笑う。




ママの痛みはこんなものじゃない。こんなの、あの男がすることに比べたら全然楽。


それにね、あの男を見ているせいか、あたし、あんた達のこと怖くないんだよね。


何を言われようが、何をされようが、全くと言っていいほど平気だった。


学校のいじめに対して、悲しいとかつらいとか悔しいとか、そういう感情が生まれなかった。



むしろ、どうでもよかったんだ。


< 215 / 297 >

この作品をシェア

pagetop