セカンド レディー
*
「行ってきます」
月日は流れ、あたしは小学3年生になった。
憂鬱な気持ちのまま始まる朝。
「柚姫、行ってらっしゃい」
笑顔で見送ってくれるママの姿に、ほんの少しだけほっとする。
ママはいつも家にいる。そして、あの男は仕事にいくため、暴力を振るわれることはない。
ママも本当は働きたいのかもしれないけれど、あの男がそれを許さなかった。
「今日も来たのかよ!」
「お前、本当気持ちわりぃよな!」
学校に着くと、あたしに向けられる視線と声。
今日も机には
"学校くんな!"
"化け物"
"きもい"
の文字が綴られている。
僅かに唇をかみ締めて、落書きされた席に座る。
「お前、なんで泣かねんだよ!?」
「"私は虐められて可哀想な子です"って言ってみろよ!」
男子たちの言葉に噛み締めた唇を緩め、嘲笑うかのように軽く笑う。
ママの痛みはこんなものじゃない。こんなの、あの男がすることに比べたら全然楽。
それにね、あの男を見ているせいか、あたし、あんた達のこと怖くないんだよね。
何を言われようが、何をされようが、全くと言っていいほど平気だった。
学校のいじめに対して、悲しいとかつらいとか悔しいとか、そういう感情が生まれなかった。
むしろ、どうでもよかったんだ。