不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「だけど、おまえひとりで解決できることは世の中にあまりに少ないんだ。もっと俺を信頼しろ。先輩方を信頼しろ。今日のことは反省してくれ」

翠が頷いて、マグカップを置く。そして顔を覆い再び泣き出した。

翠がスタンドプレーに走った原因に俺とのことがないとは言えない。俺に対する対抗意識はいつも強く、この前の一件から余計に俺の鼻をあかしてやりたかったのかもしれない。とはいえ、こんな強引なやり方はやめてほしい。

「心配させないでくれ。おまえに何かあったらと思うと……」
「……また婚約者探さないと、になっちゃうもんね」

翠が自虐的に言うので、俺は翠の両頬を両手で包み顔を上げさせた。

「くだらないことを言うなよ。家のためだけで、おまえと一緒にいると思ってるのか?」

そこまで言ってから、内心俺は死ぬほど焦っていた。

マルイチ、今の言葉、完全に「おまえが好きだから」に繋がってるよな。告白のフレーズだよな!?

マルニ、この体勢、どっからどう見てもキス寸前!!

しかしここで焦るわけにはいかない。クールな男でいなければ。
俺は表情筋を固めたまま、翠を見つめた。

「家とか許嫁とか関係なく、おまえのことは大事に思っている。……妹みたいに」

最後の最後に付け足してしまった。恥ずかしすぎてこれ以上は言えなかった。
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