不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
特務局は調査権限はあっても逮捕権はない。警察組織が出てきた時点で俺たちにできることは、調査資料を流すだけになってしまう。歯がゆくはあるが、存在自体が極秘の特務局にはできることに限りがある。

もし、翠が望むなら特務局を出た方が自由に仕事はできるのではないだろうか。
最近、そんなことを考える。

翠とはいい関係を維持していると思う。翠の誕生日を祝ったあの日、俺は翠に好きだと伝えた。あいつが馬鹿で鈍感なのはわかっているつもりだけど、たぶん……本当にたぶん伝わっているはずだ。
翠ははっきりとは言わなかったけれど、キスを拒むことも抱擁から逃れることもしなかった。翠が確実に俺を好きかと言ったら自信はない。しかし、翠なりに俺に歩み寄ってくれていることは感じる。翠もまた、俺と良好な関係を築きたいと願ってくれている。
俺なりの誠意の示し方があるとすれば告白しかなかった。

許嫁、斎賀のため、……ずっと言い訳を続けてきたけれど結局俺は子どもの頃から初恋を引きずっている。
朝比奈翠という愛らしい少女にずっと恋をしてきた。

もう素直になってもいいだろう。だって、翠は俺を見てくれている。受け入れようとしてくれている。
それなら俺は翠を精一杯大事にすればいい。

斎賀という箱の中でだって……。

そこで俺の思考はまた停止してしまう。
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