不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「おまえらのおかげで黒瓦はもう立ち行かねえ。納得いかねえヤツらを満足させてもらわなきゃなんねえんだよ」
「なあに、何人か相手してもらったら、顔が綺麗なうちにアジアの風俗に売ってやるよ」
「足の腱、切っときゃあ逃げらんねえからな」

翠が腹の底から叫ぶのが聞こえる。

「離せ!」

声から相手がふたりなのはわかった。若頭の側近には腕の立ちそうなヤツもいた。この場を切り抜けられるかはわからない。しかし、そんなことを考えている余裕もない。

俺は路地から飛び出した。ビルの裏口の前に翠が構成員に拘束されている。手を後ろに回され捕まっているのだ。

フェンスの向こうの細い道に横づけされた車が見える。その向こうは用水路だ。そちら方面に逃げ場はない。

俺は猛然と走り、翠を捕まえる男のひとりを殴った。男がよろめく。
もう一人の男はサパークラブで見かけたどうみても格闘家か武道の有段者かといったガタイのいい男だ。

「なんだてめえ!」
「公安の野郎か!」

怒号とともに俺の顔に大男の拳がぶつかる。とっさに身を引いたからクリーンヒットは避けられたが、ものすごい衝撃に視界が一瞬閃光に包まれた。
負けるか。ここで翠を守れないで誰が婚約者だ。

俺は翠の腕を引き、祭のいる路地の方向へ思い切り突き飛ばした。

「行け!」
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