不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
祭が飛び出し、翠の身体をキャッチする。視界の端にそれが見えた瞬間、腹に大男の膝がめり込んだ。
胃袋の中身が全部戻りそうな膝蹴りだ。

「おい、こいつ代わりに連れて行こうぜ。リンチしねえと腹おさまんねえよ。最後溶剤で溶かして捨てればいいだろ」

よろめきながらその言葉を聞く。絶対そんなことにはさせないが、分は悪い。今の攻撃でアバラの下の方が軋んでいる。ヒビくらいは入っているだろう。
この状態で勝つのはもちろん、逃げるのも厳しそうだ。

「おい、公安のクソガキ、覚悟キメろよ」

俺がサパークラブで暴れた男だとは気づいていないようだが、それでいい。
近づいてきた大男が俺の腕を掴もうとした瞬間。俺は身をかがめた状態から一気に顔をあげ、そのまま男の鼻と唇の間に頭突きをかました。

「ぐあっ!」

大男が怯む。誰だって鍛えられない部位はある。
もうひとりの男が跳びかかってくるのを蹴倒したが、その場で激しい肋骨の痛みに呼吸が止まりそうになる。くそ、逃げなければならないのに。
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