不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「子どもが生まれればどうしたって翠の負担が増える。俺も手伝うが、どうしてもおまえの方がウェイトが高い。仕事もセーブしなければならないだろう。だから、翠の意見を尊重しただけだ」

豪は言葉を切ってそれから言った。

「まあ、前も言ったが、子どもは授かりものだからな。俺にも翠にも決められないかもしれない。……本音を言えば俺は翠と居られればいいから、あまり拘りはない」

両思いになってから平気で甘い言葉を吐く豪にはいつも困ってしまう。
私が余計に照れて顔を背けていると、豪が私の顎をつかみ、くいっと引き寄せた。

「あまり昼から誘わないでくれ」
「誘ってません」

私は間近にある豪の顔を睨み、心外だという表情を作る。

「昼から子作りの話をするから」
「そんなことでその気にならないで。脳が中学生?」

豪がクスッと笑った。

「仕方ないだろ、中学生からの恋が叶ったばっかりなんだから」

真っ赤になっているだろう私の頰を撫で、豪は手を離す。
改札は目の前。これから仕事。
キスしてほしいなんて到底ねだれないので、私は今夜ふたりきりになる機会をまたなければならなかった。

あいつは大嫌いな許嫁。
そして大好きな大好きな私の未来の旦那様。



(おしまい)

※お読みいただきありがとうございました。
続いて番外編をお楽しみください。

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