不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「刑事事件にすれば、彼らにも類が及ぶ。失職した上で罪に問われるのは少し考えるところだな。今回は内々に処理すべきだろう。まあ、その判断は俺たちが下すべきじゃない」
「K省とうちとで責任者の鬼澤を引きずり降ろして、手打ちって感じ?」

翠は不本意そうな顔で立ち上がる。おそらくは刑事事件にして鬼澤にきちんと処罰を受けさせたいのだ。しかし、調査業務のみが俺たちの仕事であり、それ以上は上の事情が関わってくる。正義感を持っても、やりきれなく感じることは多々ある。

翠はカウンターへ向かって歩いて行く。戻ってきた彼女の手にはお冷のグラスがふたつ。こういうところはよく気が付くヤツだ。

「ありがとう。あと少しで終わる」
「聞いた話、本当に全部覚えてるの?メモも取れない状況だったのに?」

腕を組んだ翠が偉そうに見下ろしてくる。俺より20センチ以上身長が低いので、俺が座っていると見下ろせて嬉しいのだろう。

「記憶力は自信がある。翠が高校時代、化学の実験で化学室から出火しそうになったことも覚えてるぞ」
「忘れるまで頭叩こうかな」
「中学の調理実習で翠が水加減を間違えて、おまえの班だけ米が炊けず、カレーだけ食べることになったのも覚えてる」
「キモイ。ストーカー」
「大学の学祭で、舞台設営中に玄関の照明を割ったのもな」
「ホント、むかつく。余計なことばっかり覚えてるんだから」
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