不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
4.俺の許嫁は可愛げがない



有楽町駅ガード下の居酒屋・くらもとは昭和の香りのする小さな店だ。学生時代からよく来る場所だが、俺はここのモツ煮込みが好きだ。一番好きな料理と言ってもいいかもしれない。
以前翠を連れてきたとき、あいつはモツ煮込みを自分の目の前に置き、俺が友人と話している隙に完食してしまった。白飯まで頼んでひとりでぱくぱく片付けてしまったのを目にしたときは、思わず声を荒らげてしまった。これだからひとりっこは困る。いや、俺もそうなんだが、あいつほど甘やかされてはいない自信がある。翠は甘やかされたお嬢さんなので、美味いものも楽しいものも自分が独り占めできると思っているところがある。

「ほら豪、モツ煮込みきたよ。食べな」

俺の前にずずいと小鉢を進めてきたのは陣内祭(じんないまつり)だ。
俺たちと同じ25歳で、現在はIT系コンサル企業の社長をしている。少しウエーブのかかった茶色の髪に、細身のシルエット、顔立ちは優しげで中性的。雰囲気はヨーロッパの前衛アーティストみたいな男だ。

俺と翠とは中学から同じクラスで、三人でトップ争いを繰り広げてきた仲間である。
闘争心剥きだしの翠と違い、祭は静かに、でも虎視眈々とトップを狙ってくるのが侮れない。俺にも翠にも良きライバルといえる。

「昔、翠がモツ煮込みひとり占めしちゃって、豪がめっちゃキレたよねえ」

同じことを思いだしていたらしい。祭が笑うので、俺は不機嫌丸出しで答える。

「キレてない。人間性を疑うと言っただけだ」
「いやいやキレてたよ。それで、翠が怒っちゃってさ。ふたりで言い合い始めるんだもん。俺は慣れてるけど、周りの客がびっくりしてたっけなあ。確か、初めて翠を連れてきた時だったよ」
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