彼女のセカンドライフ
この会話をしている時、ちょうど凪美子達が病室の前まで来ていた。
武尊と母親の会話を、病室のドアの前で聞いてしまった。
凪美子は何も言わず、その場を立ち去って行った。
同じ子を持つ母として、武尊の母親の気持ちは痛いほど理解できた、なのになぜ⁉ 何でこんなに胸が痛いのだろう。
足早に、病院を出ようと歩く凪美子は、傷付いていた。
「なぜなんだろう……」
気持ちが分からないまま、看護師や患者とすれ違う、患者でごった返す待合室、そんな映像も、院内アナウンスも、凪美子には何も入って来ない。
ただ通路を、誰よりも早く通りに抜けて外へ出たかった。
「――さんっ!! 母さんっ!!」
誰かが呼んでいるような気がした。
あとから追いかけて来た孝太郎に、手を掴まれて我に返った。
「立場が逆になってしまったね」
この言葉に、凪美子は孝太郎の事故のことを振り返った。
孝太郎が入院している間、何度も心配して、武尊が病室を訪れてくれたことを思い出した。
そんな武尊を、自分は冷たく追い返した。