彼女のセカンドライフ
「何かすみません」
咄嗟に武尊が言った。
「どうして?」
「僕が、蓮見さんの話聞きたいだなんて言ったから、変なこと思い出させたみたいで」
「あぁ~、そんなこと、関係ないから気にしないで?」
凪美子は武尊に笑い掛けた。それに武尊も応えるように笑い返した。
「でもどうして、メンズファッションなんですか?」
突然の武尊の質問に、凪美子は笑って、
「子供を育てていて、特に男の子は急激に成長するでしょう? そこが始まりかも」そう答えた。
このまま大きくしたくないと思うほど、可愛かった時期、こんなの着られるの!?と思うほど小さな服に手を通していたのに、思春期には色気付いて、凪美子が買って来た服も着なくなり、好みが変わり始めて、娘共に息子の好みの服を、イラスト付きでメモをしていたなど、目元を緩めながら、幼かった子供達の話をする凪美子。
それを穏やかな表情で武尊は聞いていた。
笑う度に出来る、彼女の目元のしわでさえ、この時の武尊には魅力的に思えた。
「でも今や、カームクロは、一流ブランドになりましたよね」
感心しながら武尊は言った。武尊の言葉に、少し首を傾け、
「私自身にそういう感覚はないの、常に危機感を持ってる。安心できないのよね? 今時代は何を求めてるか、そしてそれに応えられるか、それにはまず、どんなものを仕掛けられるか、今色んなものが飽和状態である中、その中で角度を変えた斬新なアイデアがモノを言う。――難しいわね?」
自分に言い聞かせるように、凪美子は言った。
凪美子と話していくうちに、武尊の中で、凪美子という存在が、ただの興味から尊敬に似た感覚に変わった。