God bless you!~第14話「森畑くん、と」
こういう事があるから
受験あるある。
大体の言い訳は〝勉強のし過ぎ〟で納得する。
この時も、とうとう俺はおかしくなったと思った。
というか、多分、英語漬けで、耳がおかしくなっている。
少し考えて、「あぁ」と合点がいった。
「合コンか」
こんな所で言う事か。空気読め。
「受験が終わったらって、確か森畑もそんな事言ってたけど」
「合コンぢゃなくて、けっこん♪」
「……」
「けっこん♪」
聞こえてる。
見損なうな。ヒトを馬鹿にするのもいい加減にしろ。
そんな究極のハッタリをかまさなければ挽回できないほど……俺ら、ヤバいのか。
「馬鹿か」
思わず出た。
「突然、何言い出すんだ!」
まともじゃない。常識を疑う。
右川は、けろっとして、ヘラヘラ笑った。
「あなたぁん、試験、頑張ってねん♪」からの、にゃは♪だった。
マジで空気読め。
いつかの3者面談。右川の父が「結婚だぁ!?」と叫ぶ気持ちが分かる。
駅のホーム、右川亭、俺は散々飛ばされてきたけど。
今度は、一体何処まで飛ばす気なのか。
「こんな時にヒトを動揺させて。それで俺が大学落ちたらどうすんだ!責任取れ!」
そういう時に限って。あるいはそういう時を狙って。
俺が目の前でこんなに怒っているというのに、「試験、バッくれんなよぉ。シバくぞぉ。そこんとこ、夜露死苦」 何故かヘラヘラと、ヤンキー口調。こっちが怒れば怒るほど、右川の笑顔がどんどん派手になる。
両手でウサ耳までこしらえて……どういう気なんだ。
俺の感情を逆撫でして、一体何がしたいのか。ラリってんのか。
「ウケるかと思って、ちょっと言ってみただけじゃん」
「ちょっと言った?どうみても笑えないだろ!」
そこでウサ耳の両手を、しゅん、と折り曲げた。
とんでもない事を言ってしまった反省、ではなかった。
当てが外れちゃったよーん、の顔だ。
呆れてモノも言えない。
今回に限っては、しょうがねぇな、じゃ済まないぞ。
こっちが何の反応も見せなくなると、右川はふて腐れた様子で、ウサ耳の両手を降ろした。
「あーあ。スベり散らして、もうネタ切れ」
言う事がそれか。
右川は、右を見て左を見て、何を探しているのか、上を見て下を見て。
またしても永い長考に入った。
まるで言い訳を探すみたいに、もじゃもじゃ頭を掻いている。
かと思うと、自分で自分の頬をツマんだ。これは夢だと、そんな妄想に逃げ込む気なのか。
一体いつまで、そうしているのか。
早く決着してくれないと……こっちの口元が怪しくなってくる。
彼氏の激励にやってきたと思ったら、ウサ耳とヤンキー。
まるで、ガキの使い。なのに、結婚ときた。45じゃねーワ。
的外れが、過ぎる。
その逡巡は、俺の体中のあちこちに、自動的に伝わった。
もう時間の問題かもしれない。さっそく肩周りが、ぴくぴく震える。
その震えは、背中に、肩に、両腕に伝わって。
我慢できなくなって、俺は片腕で口元を覆い隠した。
それでも鼻先からは、ぐすっ、ぐすっと、漏れて仕方ない。
リズミカルな鼻息にくすぐられていると、
「え、マジ?泣いてるの?」
どこか怯えながら、右川がこちらの様子を窺って、顔を覗き込んだ。
初めて見る、その表情……いや、見たら、ダメだ。
強く目を閉じた。
こういう事があるから。
こういう事があるから……こいつを、手離せない。
もう、限界。
俺は両腕で、右川を抱き締めた。
もう我慢できない。もじゃもじゃ頭に向かって、ゲラゲラと吹き出した。
先を急ぐ学生達が、この状況に驚いて立ち止まる。
誰かが何かにぶつかる。そんな気配を感じた。
保護者もいるだろうし、先生だって……いい見世物だ。
そうしているうちクールダウンがどんどん進んで、冷静が甦る。
右川は身動きしないまま、自然と腕を回した。
そこで、俺を見上げて。
そんな目で来られても、こんな所でキスなんかできる訳ないだろ。
右川カズミ。
いい気になるな。
「アソコ舐めるぞ」
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