God bless you!~第14話「森畑くん、と」
「俺に向かって何て言ったと思う?」
呆気に取られている大学関係者を尻目に、俺は大学内へ急いだ。
間に合った。
当たり前だ。
そこまでチンピラに呑まれてたまるかという俺の意地でもある。
会場に入って席に着いた。
静まり返った会場内。
可笑しくて仕方ない。笑う声が漏れないように下を向く。
右川が、あそこまで動揺するとは思わなかった。
顔を真っ赤にして、「バカ!変態!サル!キモいんだよっ!サッサと落ちろ!」と、俺を突き飛ばした。キモいとは言われたが、重森とは違う反応で良かった。ちょっとホッとしている。
そこでまた可笑しさが込み上げてきて、問題用紙が届いたと同時に、我慢できずにプッと吹き出してしまった。慌てて誤魔化す。
その後は、静けさが戻った。
紙をめくる音だけが響いた。
もう全然、落ち着いて……というか、ちょっと浮き足立って、今朝までの緊張が嘘のよう。
ここはまるで、いつかの双浜高だ。
今日って、4月の予算委員会だったかな?
違うはずだ、平常心を取り戻せ!と頭で何度も叩き潰す。

試験は終了した。
頭の中、いつかのように独りで手を叩く。



その日の夕方。
塾で答え合わせが始まった。
雑談も交えて、仲間同士、それぞれが思い思いにやっている。
森畑の顔を久しぶりに平常心で眺めた。
「あんな女じゃ、おまえが報われないって」
〝右川の会〟
森畑が自分から名乗りをあげてくるとは思わなかった。
こないだ右川と交わしたという会話の一部始終を聞く。
森畑は……楽しんでいた。
いつかのような片思いの楽しい話ではない。
とんでもない女に捕まった哀れな男を笑っている、そんな感じに取れた。
ただ、1度も話が途切れない。
もうそれだけに必死になっている森畑を見ていると、右川の悪口でも何でもいいから全部吐き出して、いつものようにカラッと笑ってくれたら……もし話が途切れたら、後はこっちが引き受ける覚悟だから。
俺は祈るように何度も相槌を打つ。
「あのチビ、オレの彼女の事ばっかりに興味があってさ。誘ったオレは一体何なんだよって」
あるある!
興味の無い事に、右川は同じ土台で本気で向き合おうとしない。
その悔しさ、痛み、森畑の後悔も含めて、ちゃんとお互いが共有している。
そう思えたら、自然に笑えた。
「俺なんか、今まで何度も売られてきたよ」
そこから。
これまでの一部始終、最初から最後まで、森畑に聞かせてやった。
選挙の話。文化祭の話。付属とのイベント。ネタは尽きない。
説教以外、俺から森畑に話してやれる事がこんなにあったのかと、それが意外である。
その七転八倒の歴史に、森畑は文字通り、転げ回って笑った。
2人とも、試験の解答はそっちのけ。いくら和気あいあいの雑談交じりとはいえ、怒られなかったのが不思議なくらいだ。
右川の会は、その後スタバに場所を変えても続く。
「今朝、大学の正門で、試験前の俺に向かって何て言ったと思う?」
話してやると、一瞬だけ森畑から笑顔が消えた。
「沢村をムゲにするなとは言ったけど、そこまでは……」
森畑が絶句するのを眺めながら、自分も似たような事を右川に言ったなと可笑しくなった。
「オレの彼女ですらそんな事、冗談にも言わないぞ」
森畑はア然とした。
「全然、惚気に聞こえない。それはオンナの脅迫だ!」と、叫ぶ。
帰り際、「あいつの無茶苦茶に負けんなよ」とエール?まで飛び出した。
森畑は途中で振り返って、
「まさか、本当に結婚すんのか」
真面目な顔でブッ込んでくる。
それこそが、まさに俺が思い描く、森畑が右川に取り込まれた瞬間のように思えた。
放心した。
何だか、受験も何もかもが、キレイに終わった気がして。
後日、そのまま呆けたように滑り止めの一般試験に流れ込む。
こっちは確実だろう。そんな自信さえあった。どの大学でもいいから、誰かの代わりに受けてやりたい気もして……大丈夫だろうか。
もう何処かに決まっただろうか。そんなメールはまだ来ていない。
あいつからメールは絶対来ない、いつもの事だ。
こっちから聞いてやろうか。
『結果どうなんだ?それ位、ちゃんと知らせて来い。本当に舐めるぞ』
どうせ返事は来ない。
何と言われようが、1行説教メールを変えるつもりはないぞ。
2人とも決まったら、ゆっくり会える。
その時の為に、ちゃんと何か用意しておこう。
1ヶ月遅れの誕生日。
いつかの真っ赤な顔が、ぼんやりと浮かんだ。





<Fin>

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第15話 予告。
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合格祝い。
お別れ会。
卒業式。

お楽しみに♪

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