エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~

「ヒューゴ」

彼もシンディに気づく。
眩しそうに彼女を眺め、わずかにためらいを見せたヒューゴだったが、シンディがじっと見つめていると「やあ、久しぶりだね、シンディ。相変わらず綺麗だ」と笑顔を見せて近寄ってきた。

「おっと、こんな軽口をたたいていては駄目だね。君は王太子妃になるのだから」

「……ヒューゴ」

ベリルの姿では愛されなかった。でも、シンディの姿に戻ったら? 
シンディは、そんな希望が胸に沸き上がるのを止められない。
この人は人の気持ちを宝石と同じ価値としか思っていないのかもしれない。そう思ってもなお、どうしてヒューゴに惹かれてしまうのだろう。

「王太子様は素晴らしい人格者だ。僕は、君が幸せになるのを願っているよ」

かつては将来を誓い合った女に、こんな言葉を吐くのは残酷だと思わないんだろうか。
シンディは悔しさに唇を噛みしめる。

「……本当に私が幸せになれるって思ってる?」

皮肉交じりに問いかえせば、ヒューゴも気まずそうに頭をかいた。

「なってほしいと思ってる。……僕もベリルと幸せになるよ。君の妹だ。大切にする」

大切にした結果があれなのかと思うと、いら立ちが募ってくる。
こうやってヒューゴは、目の前の人間にいい顔をしているだけなんだろうか。だとしたら、こんなに彼に心をとらわれてしまった自分が滑稽すぎる。

「ベリルはもう、あなたに会いたいとは言わないと思うわ」

「え?」

「宝石を望んだんでしょう? 馬鹿なあの子は家の宝石を盗もうとして、それを母に知られてしまった。おそらく婚約解消って話になるでしょうね。我が家でのあなたの信用はがた落ちよ」

「なんだって?」

ヒューゴは顔色を変え、「悪い、ちょっと急用が」と図書室のほうへと戻っていった。

(慌てたのは、ベリルとの婚約を破棄したくないからかしら)

シンディは整理のつかない自分の気持ちを抱えたまま、彼の後ろ姿を唇を噛みしめながら見送った。
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