先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~

人影も疎らな部署内、よろよろと自分の机に戻り力なく椅子に座る。
聞くんじゃなかった、立ち聞きなんてしちゃいけない…罰が当たったんだ…。
頭が混乱して見ていないのに先ほどの光景が頭に浮かんで余計に落ち込む。

なんで、こんなに不安なんだろう…。

航さんは私を好きだと言ってくれる。私を愛してくれている。
なのに、自分に自信がない為に、いつか航さんが誰かの元に行ってしまうのではないかという不安がいつも胸を巣食っていた。

「はぁ、今日はもう帰ろ…」

もう仕事にならない。
航さんと顔を合わさないうちに帰ろうと支度をして、残ってる人たちに挨拶して出ていこうとしたら、ちょうど航さんに出くわしてしまった。

「お、お疲れ様です…」

なんだか目を合わせられなくて下を向いて挨拶をして過ぎ去ろうとしたら、

「松崎、ちょっと」

と、腕を掴まれ隣のミーティングルームに連れ込まれた。
私を先に入れ後ろでカチャと鍵を閉める音。
私は振り向けず下を向いたまま立っていたら、後ろからふわりと抱きしめられた。

「っ…か、課長?」

頭に頬を寄せられギュッと腕に力が込められた。

「花笑、さっきの聞いてただろ」

「え…」

「人の気配がしたから誰かがいたのは気づいていた。さっき、顔を合わせた途端逃げるように帰ろうとしたから…お前だろ?」

「…ごめんなさい…立ち聞きなんてして…」

気まずい思いで声が小さくなる。

「別に、お前ならいい。逆にすまない、聞きたくないことも聞いたんだろ?」

「航さん…」

ゆっくりと腕を解かれ振り向かされた。
もう目に涙がたまって航さんの顔が歪んで見える。

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