先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~

ただいまの返事を待っている


「ただいま」

「・・・・・」

午後6時。
いつもより早く帰ってきたというのに、暗い室内。
誰も返事をしない家。

「そうか・・・もう、花笑はいないのか・・・」

花笑が居なくなってからもうどれくらいたったのか・・・。
いい加減慣れなくてはいけないのに俺は未だに花笑がお帰りと出迎えてくれるような気がしてる。

リビングに入り、そこかしこに花笑の面影が残っている家の中を見回すと、虚しさがこみ上げてしまう。
一人で暮らしていた事を忘れてしまうほど、二人でいることが当たり前になっていた。
あれからいくつ季節が変わり巡ったか、一人がこんなに辛く感じるとは思わなかった。
無理だとわかっていても花笑に会いたい…。

今や開かずの間になってなってしまった隣の部屋の戸を見つめながらネクタイを緩めソファーに座った。
気が抜けたように膝に肘を掛け項垂れた。

「随分と腑抜けてしまったものだな……」

自嘲気味に笑った俺も、仕事だけは花笑がいない虚しさを払拭するようにがむしゃらに働いていた。
鬼気迫る様子にますます部下たちは俺を恐れる。
日野にまで「山片部長、怖すぎですよ。みんな近寄れないっす。」と恐る恐る言ってくるほど・・・。

職場もあれから一新。
俺は部長になり、小山が課長。日野は主任と順当に役職に就いている。

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