先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~
花笑Side
-----
---

「ふぅ~」

医務室に入ってため息をつく。
おじいちゃん先生は奥の方でお茶を飲んでるようだ。

こうくんにかわいくない態度を取ってしまった。
後悔しながらも、先ほど抱きしめられたことを思い出す。

抱きしめられたときは嬉しかったけど、その瞬間、妖艶な香水の香りがしてばっと離れてしまった。
こうくんはあまり香水を付けない。
きっと西川さんの香水が移ってしまったんだろう。
それくらい密着してたと思ったら、胸の中に黒いものが渦巻いて吐き気がした。

「…っ」

致し方ない状況だったってことは百も承知だ。
でも、それでも、さっきの光景は私にはショックで、羨ましく思ってしまった自分に心底嫌気がさす。

私、こんなに嫉妬深い女なんだ…。

それを自覚して余計に自己嫌悪に陥った。

何とか自分の感情を抑えていると、カーテンの向こうからがさごそと音がして、ためらいながらカーテンを開けて様子を見てみると、西川さんが起きだしていた。

「西川さん、大丈夫ですか?」

声をかけると、西川さんはふわぁあ~とあくびをして聞いてきた。

「あれぇ、松崎さんだけぇ?課長たちは?」

「みんな仕事に戻ってます」

「あっそ、じゃ、私貧血ってことで早退するわね。後よろしく~」

そう言って、颯爽と私の横を通り過ぎて帰っていった。
あの香水の香りを残して…。

「やっぱり。あれはさぼりじゃな」

後ろから声がして振り返るとすぐそこにおじいちゃん先生がいた。

「あんたもご苦労さんだな。どうだ、お茶でも飲んでくかい?」

「あ、いえ。私も仕事に戻ります。ありがとうございました。」

お礼を言って私も営業部フロアへ戻った。
私も西川さんは仮病なんじゃないかとなんとなく予想はしていた。

< 68 / 272 >

この作品をシェア

pagetop