【完】さつきあめ
好きな人に、自分を好きになってもらえる奇跡がこの世界にどれくらいあるのだろう。
そんな言葉に酔いしれる間もなく、次に光は絶望的な言葉を投げかける。

「でも…付き合ったり、恋人同士にはなれない…」

「なんで……」

誰かと付き合った事はない。
正真正銘、光が初恋だったわたしにはその言葉の意味が理解出来なかった。
人を好きになって、その相手も自分を好きであるのなら、それは付き合って恋人同士になる。
それでもあの頃のわたしたちにはその当たり前の事が出来なかった。
そんな小さな幸福さえ、拾いあげられない。

「ごめん……」

「答えになってないよ…光…」

どんな説得の言葉を投げかけようと、光の心を動かす事は出来ないだろう。
それはもうわかってた。
それでもなおも子供のように何度もなんでと繰り返した。

ずっと光の事を想ってきた。
お互いの想いは同じなのに、一緒にいることは出来ない。

「あたしがお店の女の子だから?
それならあたし…お店辞める。七色グループじゃなくたって働くところはたくさんある…」

「お前は俺のためだけに七色で働いてんの?」

光の言葉にどきりとした。


わたしは…わたしは、光のために七色グループで働いてるわけじゃない。

「お前みたいな人間の事だから、何かあってこの仕事してると思ってたけど
それは俺との恋くらいで捨てれるようなちっぽけなもんなの?」

光の言葉が胸を突き刺さっていく。 それは自分の確信を突かれたような気がしたからだ。
それでも光との恋もちっぽけとは呼べない。

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