【完】さつきあめ

「ごめん。少し意地悪に言い過ぎた…。
でも夕陽が店の女とか、理由はそれだけじゃあないんだ」

「そんなの、納得出来ないよ…。宮沢さんだって、今度部長になる人だってお店の女の子と付き合ってるんでしょ?何で光だけダメなのか全然わかんないよ…」

「だからお店だけの問題じゃなくて、俺の問題なんだ…」

「光の問題なんて…」 わからないよ。そう言いかけて止めた。

どんな事だって自分の意志を曲げない人だっていうことはとっくにわかっていたから。


「すごい自分勝手な事言っていい?」

「え?」

「いつかさ…いつになるかわかんないんだけど
俺が俺の問題を片づけて、夕陽も夕陽の中にある目標みたいなのかなえて
その時に俺と付き合ってくれる?
本当に普通の恋人がするみたいな毎日を一緒に過ごして、俺の側にずっといてくれる?
俺だけの夕陽になってくれる?」

「そんなの、何年だって、何10年だって待つ…
だってあたし光以外好きになれないもん…絶対だよ…」

「何10年も待たせたらじじいになっちまう」

「何10年経ったって、あたしはずっと光だけ好きなまんまだよ…」

人は何故、出来ない約束をするのだろうか。
必死に走り抜けたあの日々を、人は若さだと笑うのだろうか。
それでもわたしはあの約束だけを道しるべに今日まで歩いてきた。
何10年でも光を待つ、あの言葉に嘘や偽りは何ひとつも無かった。
汚れなき愛を曇りなき瞳で見つめてくれた、あなたを指針にしてどこまでも歩いて行けると本気で思っていた。

それでも、今、あなたはわたしの隣にはいない。
あなたではない人に抱かれ、あなたではない誰かの愛を受け入れる。
こんな日が来る事をあなたはいつも恐れていた。その気持ちをどこまでもくみ取ってあげられなかった愚かな自分を何度嘆いても、もうあの場所には戻れない。

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