【完】さつきあめ
事務所に入ると、お世辞にも綺麗と言えなかった。
資料が積み重なっていたり、雑誌や女の子のバースデー用の宣材のポスターは散乱しているし、何台かのパソコンには事務の人が数人と、1番奥のパソコンに朝日が座っていた。
…一応仕事してるんだ。そう思ってたら、ひょっこりとそこから顔を出す。
何か言われる、と思ったけど朝日は何も言わずにすぐに再びパソコン画面に向き合って仕事をしている。

光の姿はなかった。

「深海さぁ~ん!おつかれす!」

奥にある部屋から出てきたのは、いかにも軽薄そうな若い男の子だった。
男の人、というよりかはまだ少年らしさが残る‘男の子’だった。
どんぐりみたいな大きな瞳が印象的で、身長もわたしより少し高い。光も朝日も深海も180を超える長身だからだろうか。随分小さく見える。
その可愛らしい男の子は深海の隣にいるわたしを見て、にこっと人懐っこい笑顔を見せた。

「うわぁ~!生さくらちゃん初めて見たぁ~!
写真で見るより、ずっと綺麗だねぇ~!」

にこにこと笑いながら、近づいてくる。
わたしの事を知ってる、っていうことは七色グループの誰かであることは確かだけど、なんか苦手だなって感じた。
大人っぽいスーツに、少しちゃらついた金色の髪の毛。
ごほん、と朝日が顔を見せずに咳払いして、その男の子はニヤニヤと笑いながら、こっちへどーぞぉと奥の部屋にわたしたちを通した。

中にはテーブルを囲んでソファーがあり、わたしと深海が隣同士に座り、向かいのソファーに男の子が腰をおろした。
すると乱暴にドアが開き、無言のまま何故か朝日までその男の子の隣に腰をおろす。

「原田っていいます。よろしくね、さくらちゃん」

「原田さん?」

どこかで聞いたような名前だった。記憶を辿って、ひとつの答えにたどり着いた時、深海の顔を見た。

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