【完】さつきあめ

はるなと美優。そしてお客さんたちからラインや電話が数件入っていた。
光からのラインはない。電話もない。
わかっていた事だけど、それを確認した後、誰からの連絡も見ないで、携帯を床に放り投げた。

いつか始まるはずだった恋。
初めて人を好きになるのは喜びだった。
片思いは苦しみで、初めて想いが通じた瞬間は、この世界にこんな幸せがあるのか、とさえ思った。けれど、好きな人が自ら自分の傍から離れていくのは絶望しかなかった。
光の存在で鮮やかに染まった世界は、一瞬にしてモノクロの色を持たない世界になった。

全てのやる気が起きない。

今日はTHREEの初出勤日。それさえ、行く自信がなかった。
体中に力が入らないんだ。頭では行かないといけないとわかってる。
ルーズな人が多い世界で、遅刻や無断欠勤は当たり前。けれどわたしは一度だって休まなかったし、遅刻もしなかった。それを周りはいつも褒めてくれた。

けど…今は起き上がって何かをする勇気さえ持てない。
自分は空っぽになってしまった。
ソファーで何もしなく過ごしても時間は無情に過ぎていき、2時間ほどぼんやりと過ごした後、突然床に放り投げた携帯がけたたましく着信を告げる。
それを拾い上げる気力さえなかった。

それでも電話を掛けてくる主はよっぽどしつこいらしく、10分ほど着信音は鳴りやまないままだった。

「もー…うるさ…」

苛立ちを感じながら、携帯を手に取ると、そこには高橋くんと画面に名前が浮かび上がっていた。

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