【完】さつきあめ

「ゆい……?」

朝日の口からもう何も聞きたくなかった。
だからゆいの名前を出された時も、嫌な予感がした。

「ゆいは有明がスカウトした女だって知ってるよな?」

「知ってます…けど…」

「あいつと有明もセフレだろ。
お前本当に可哀そうになぁ…」

可哀そうに、その言葉と対称的に朝日は笑っていた。
ゆいと光が?
光には今、彼女がいて、一緒に暮らしていて、そしてゆいともそういう関係だった…?
待ってろって言葉も、わたしを好きだって言った言葉も嘘だった…?
信じたくない現実を目の当たりにして、足元から崩れていきそうになった。

この系列で働いて、朝日が何も言えないくらいの圧倒的なナンバー1になって、光の事も全部守って、この恋を守りたかった。
けれど光は、そんな事を望んでないというの?

「さくら………」

朝日はソファーから立ち上がり、わたしを後ろから抱きしめた。
体に力が入らなくて、朝日を振り払う事さえ出来ない。
…光の言葉は全部嘘だった?

「俺ならお前を泣かせるような事も不安にさせる事もしねぇよ…」

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