【完】さつきあめ

「じゃあさくらちゃんの初指名ってことで!シャンパン開けちゃおっか!
…って言っても1番安い奴しか開けられないけどね」

「いいんですかぁ!!すっごく嬉しい」

初めて指名で着いた席で盛り上がり、初めて自分の指名の席でシャンパンが出る。
シャンパンを持ってきてくれた深海は「ありがとうございます」とお礼を言いながら、少し安心気な笑顔をわたしへ向けた。


「さくらさん、お願いします」

談笑をしていると、高橋が来て、わたしを抜いた。
本指名が来ているのに、席からわたしを抜く、ということは指名が重なった、ということで。
高橋の後ろで美優がピースサインをする。

「美優さんです」

戸惑って、安川さんと美優を交互に見つめる。
他に指名が入った。安川はそれをすぐに察したようだが「いってらっしゃい」と優し気な口調で言う。

「どもどもスーパーヘルプの美優ちゃんでぇ~すっ!さくらとは仲がいいんです!よろしくお願いしまぁ~すっ!」

「へぇ、さくらちゃんと仲良しなんだ!話が合いそう!」

「へへへ。おじゃましまぁす!」

その日は、この仕事についてから1番驚いた日かもしれない。
いままでフリーで着いたお客さんや、場内指名をもらっていたお客さんが一気に本指名で返って着た日だった。3組、指名がかぶり席をくるくる移動するわたしに文句を言ったりするお客さんは1人もいなく、皆快く送り出してくれた。
それは深海の付け回しのうまさだったり、美優やヘルプの女の子たちのアシストがあったお陰でもあるのだろうけど。

0時を回るころにはお酒も回ってきて、心地よい疲れが全身を駆け巡る。

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