【完】さつきあめ

「俺は待たせてばかりだった。今度は俺が待つ番だ」

「あたし…約束は出来ない…。約束をするのが嫌いなの」

「それでも、俺は待つよ」

待つのと待たせるのなら、どっちが辛いのだろう。
どちら側の立場になって初めて考える。
どっちも同じくらい辛くて、同じくらい重い。

だからわたしはあの時約束をしなかった。
光はもう、何にもとらわれず、自分の夢を自分の為だけに叶えたらいいんだよ。
自分が朝日の夢を奪ったなんて考えなくていい。光は光の好きな道を選べばいいんだよ。

この夜に、沢山の想いを残してきたあなただから。

「光、THREEに菫さんが入ってきたんだ」

「あぁ、ずっと昔に兄貴と付き合ってた女だ」

「シーズンズはさくら、THREEは菫、双葉はジャスミン、ONEはカスミソウ…」

「ジャスミン、まりかは俺の母親の名前で、かすみは亡くなった、兄貴の母親の名前だ」

そっと目を閉じれば闇が襲ってきて、人はひとりなんだと思い知らされる。
求めても、最初から与えられなかったもの。
手を伸ばしても自分を拒んだもの。

それでもあの人はこの夜の片隅で、小さく息をしながら、自分が失った母性をずっと探し続けていた。
愛していたんだ。

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