純真~こじらせ初恋の攻略法~
俯いた私の頭に、藤瀬くんの顎がこつんと乗っかったのがわかる。

「ごめん……茉莉香が弱ってるのに。付け込むような真似した」

藤瀬くんの表情はわからないけれど、なんだか顔を上げ辛い。

どういう意味での『ごめん』なのか聞くのが怖くて、私は何の反応もできなかった。

「こんなんじゃ駄目だよな……」

藤瀬くんは私を抱きしめる腕を緩めると、勢いよく大きく一歩下がる。

「俺、やっぱり会社に戻るよ。湯川さんともちゃんと話をする。井手口部長にも報告して、会社にきっちりと処分してもらう事もできるよ。茉莉香はどうしたい?」

「私は……」

藤瀬くんは本当は私がしなくてはならないことを、自分が処理してくれると言ってくれているのだ。

それはきっと、私が報告の際に湯川さんとの出来事を思い出し、辛い思いをしたり取り乱したりしないように。

全て私のためを思って行動してくれるということ。

だったら。

「私は何も望まない」

藤瀬くんを見据えてそう答えると、彼は驚いたようだったが、声を荒げることなく「どうして?」と優しく聞いてくれた。

「今回のことに関しては、少なからず私の落ち度でもあるから。全てを湯川さんに任せないで、自分でも帰りの交通状況を確認するべきだったし、何の警戒もなくのこのこ部屋に入ったのも私だもの」

ちゃんと自分で確認して調べて警戒すれば、こんなことにはならなかったかもしれない。

いや、きっとならなかったはずなんだ。

それに藤瀬くんのことも、意地を張らずにもっと早く自分の気持ちを認めてさえいれば、湯川さんの行動だって違ったかもしれない。

全部憶測でしかないけれど、少なくともこんな事態は避けられただろう。

だとしたら、湯川さんにだけに背負わせることはできない。
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