純真~こじらせ初恋の攻略法~
手首を掴まれたまま、引き摺られるように歩いていた私は、藤瀬くんの手を引き返して無理やり足を止めた。

「いい加減にしてっ」

キッと睨みつけてみたが、酔いが回ってとろんとした目では、睨みなど効くはずもなかった。

「みんなの前であんなこと言うなんて……おかしい」

昔のことはキッパリと否定したくせに、どうしてあんなこと言ったのか。

私には到底理解できるものではなかった。

「全くの無関係だと言えばよかったのか?」

「自分が初めにそう言ったんじゃないですか」

ぷいっと顔を背けてそう言うと、藤瀬くんは私の気持ちとは裏腹にクスリと笑った。

「そうやって膨れるところ……変わらないな」

懐かしそうに呟く藤瀬くんは、私をどんな目で見ているんだろう。

「変わらない人間なんていません」

どんなに変わりたくないと思っていても。

どんなに変わって欲しくないと思っていても。

人は必ず変わってしまうものだ。

だからあなたも、私から離れていったんでしょう?

「そうだな……」

まるで心の声に答えを出されたかのような藤瀬くんの言葉は、私の胸を深く抉った。

「私はタクシーで帰ります。藤瀬さんはおひとりでどうぞ」

早くこの場から去ってしまいたくてそう言ったのだが、藤瀬くんは瞬時に私の手を握った。

「茉莉香……」

不意にそう呼ばれて、私の身体は震える。

名前を……あの頃みたいに名前を呼ばれただけで、立っていられなくなるほど力が抜けそうだ。

けれど。

「藤瀬さん」

私は敢えて二人の間に線を引くようにそう呼んだ。

「過去は過去です。私は今、藤瀬さんのアシスタントという形でここにいます」

より以上に踏み込まないでくれ、と。

私は彼にそう言った。

「橘さんがそのつもりならそれでいい。俺は遠慮するつもりはないから覚悟しとけよ」

「……よろしくお願いします」

私は藤瀬くんに一礼して、通りかかったタクシーを止め、急いで乗り込んだ。

あれ以上一緒にいたら、色んな意味で私はダメになる。

仕事で何があろうとも、もとより覚悟の上だ。

藤瀬くんの言葉に奮起し、私は流れる景色を眺めたのだった。
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