絶対領域




それでも、問い詰めたりしない。


それが姉ちゃんの覚悟だというのなら、受け入れるよ。



そして今度は、俺が、姉ちゃんを守ってみせる。




姉ちゃんの前で泣くのは、これで最後にしよう。

強くなろう。


ううん、強くならなくちゃいけない。





脳裏を、過る。

ショパンの「別れの曲」を歌う、姉ちゃんの消え入りそうな背中が。




――あのね、姉ちゃん。

俺、知ってるんだ。



姉ちゃんが毎晩一人で、あのオルゴールを巻いて、曲を奏でていること。


月夜を眺めながら、ピアノの音色を聴いて、泣いてること。



『……好きだよ。今でも、ずっと』



誰かに愛を囁いてること。





オルゴールを奏でる回数分、姉ちゃんが泣くのなら。


最初から、あんな物、贈らなければよかったんだ。

もらわなければよかったんだ。






きっと、俺の時間も、“あの時”で止まってる。





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