絶対領域
「だから、自然と助けを求めなくなった。そういうもんなんだって、思い込むことにした。そうしなきゃ、やってらんなかったんだ」
自嘲げな声は、男子にしては少し高めで。
悲痛めいていた。
「その日も、いつもと同じだと思ってた……けど、違った」
あ。
変わった。
泣くのを我慢するみたいに引きつっていた表情が、一瞬できらきらと晴れ渡る。
「俺の前に、救世主が現れたんだ!」
どん底の暗闇に差し込んだ、希望の光。
翠くんにとっての、ヒーロー。
「その人は突然現れて『もう大丈夫』って言って、あっという間にカツアゲしてきた奴らを倒しちゃったんだ!」
「その時に憧れの人が回し蹴りを?」
「うん、そうだよ!すんげぇ強くて、かっこいいんだけど、特に回し蹴りが印象的でさ!」
確認するように尋ねた萌奈さんに、翠くんは興奮気味に答える。
「なんていうか……綺麗、だったんだ」
目を閉じて、その時の光景を想起した。
うっとりして、思慕の息を漏らす。
「その憧れの人って、一体どんな奴なんだよ」
「俺もよく知らないんだ。会ったのは、その時の1回きりだし」
世奈くんの問いかけに返ってきたのは、曖昧な返答で。
世奈くんはもっと訝しそうにする。