絶対領域
毛先がすり抜ける寸前。
『そばにいさせ、っ、』
薄く開いた萌奈の唇を、キスで塞いだ。
冷たくかさついた唇の隙間に、しょっぱい雫が伝う。
今まで何回も口づけたのに、初めてみたいに下手くそで、息継ぎもできなかった。
こんな悲しいキス、したくなかった。
心も唇もひりついて、長く触れ続けられない。
最後のキスを惜しみながら、そっと口を離す。
同時に、だらんと滑り落ちた手の中身は空っぽで、物足りなさでいっぱいだった。
『萌奈、好きだよ。さよなら』
これからも、ずっと、ずっと。
どこか遠い場所で、想ってる。
無理して笑った。
今の俺の顔は、どんな風に映っているんだろう。
綺麗じゃなければいい。
不細工で、汚くて、ダサくて、みっともなければ、少しは萌奈の苦味を取り除けるかな。
萌奈の長いまつげに乗っかった、あの涙を拭ってやれる、俺じゃない奴と幸せになって。
また、笑って。
『やだ、さよならなんて嫌だよ……っ、ねぇ!オリ!』
夜桜を一瞥してから、萌奈に背を向けた。
振り返らずに、歩いていく。
『待って!待ってよ、オリ!!』
見なくても、萌奈の表情がわかるくらい、ずっと一緒にいた。
萌奈は、追いかけようとしても、ベンチから立ち上がることすらできない。
ただただ泣いて、叫んだ。
『オリっ!!』
必死に呼び留める声に、グッと拳を握り締める。
震える足で、萌奈の視界から姿を消した。