絶対領域




「み、みーくん」


何か、言ってよ。

お願いだから。



「みーくん、ねぇ……翠!」



初めての呼び捨てにだって、応えてくれない。



震える指先で、柔らかな黒髪を撫でる。


赤いメッシュの入った左側の毛先に触れてみると、みーくんの顔があらわになった。



薄く開いた唇から、弱々しい息を感じる。


けれど、顔も体もボロボロ。

あらゆる箇所にガラスが食い込んでいた。



「どうしてよ……」



私だけで守り抜くはずだったのに。

傷ついたり、傷つけたりしたくなかったのに。


どうして私が守られてしまうの。



「みーくんの、バカ」



恩返しの意味はよくわからないけれど、私の盾にならなくてよかったんだよ。


本当は私が、全部解決したかったの。



「……ごめん、ごめんね」




やり直せるものなら、やり直したい。


“あの時”よりずっと前から、もう一度。



今度はもっとうまく守ってみせるから。




涙がひと粒あふれたと同時に、ハッとした。



禍々しい気配。

後ろに誰かい――ガンッ!!



「い、っ!」



頭に衝撃が走る。


痛くてたまらない。



隙を突かれ、後頭部を鉄パイプで殴られたのだ。



グワングワン振動する脳内。

こめかみを伝う、生ぬるい感触。


気持ち悪くて、体温が下がっていく。




後ろで鉄パイプを握ってる、あなたは誰?



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