絶対領域

ひもほどく関係







私は、誰?

“あなた”は、誰?



――もう、知っているでしょう?








きゅぅ、と左手の表面にかすかな感触を覚えた。


頭と心に棲んでいた苦痛が、だんだんと弱まり、散っていく。


地べたにつけたお尻と足が、冷たい。

消毒液の香りに、鼻がかゆくなった。



「ん……」



瞼に力をこめると、目尻から涙があふれた。


腕にうずめた顔をゆっくり上げていく。



ここは……?



少し視線を彷徨わせる。


その途中で、ベッドの上で眠っている男の子を捉えた。



「みーくん……っ」



あぁ、そうだ。

思い出した。



出会いも別れも、対立も黒幕も、記憶を喪失していたことも。


わからなかったことまで、全部。




『お前が、やったんだ!!』


『……守れて、よか、た……』



脳裏でどよめく声音に、オルゴールの崩壊した音が共鳴する。


あのオルゴールの天使はたった独り生き残っていたのに、私は“天使”としてでさえいられなくなっていた。




私の左手と、みーくんの右手。

繋がってるところがあったかくて。


無性に愛しくなる。



「みーくん」



普段より白い顔には、あまり傷痕が残っていない。


寝ている姿も苦しそうではなくて、安心した。



「目が覚めたら、『ごめん』も『ありがとう』も伝えさせてね」



< 533 / 627 >

この作品をシェア

pagetop