Cosmetics
唖然とする学生たちを置いて、明日香は相模の肩を組んだまま近くの公園まで歩いて行った。
「ごめん。余計なことして」
公園に到着してすぐに明日香は謝った。余計なことをしないでください!と叱られると思ったからだ。
この年頃の少年たちは、地獄のような経験をしている最中でも、余計な手助けをされると状況が悪化することを恐れるからだ。
しかし、少年から戻ってきた返答は明日香の予想とは相反していた。
「いえ、本当に困っていたので助かりました。ありがとうございます」
礼儀正しく、頭を下げて少年は明日香にお礼を述べた。
どうやら彼は高校二年生ということだ。
私学の進学校に通っているとのことだが、周りは勉強ばかりしてきた人間が多いらしく、ストレスを発散するためにターゲットを見つけては、お金を巻き上げたりするらしい。
昴の件も今回が初めてではないらしく、被害も彼だけでないそうだ。
「な、なら良かったよ。ああいうの嫌いでさ」
「そうですね。僕も、そろそろ冗談の域を越えてきたところだったので、周囲の大人に助けを求めないといけないなと思っていたところです。ああいう連中は、言わないと思ってるとつけあがるタイプなので。証拠も充分揃ってますし、停学くらいには追いつめることはできるでしょう」
少年の返答に、明日香は思わず吹き出した。
「あんた、しっかりしてんね」
「こんな性格なので、いじめのターゲットになることが多いんですよ。人間という生き物は、自分より優秀な生物を排除したがる傾向にありますからね」
「なるほどね。ちゃんと仕返しできるなら、いいや。よかったよ。相談できる大人はいるの?もしよければ、私が、一緒に証言してあげようか?」
「ああ、助かりますね。いいですか?」
今まで会ったことがないタイプだったので、明日香は俄然興味がわいた。
「いいよ。面白そうだし」
「ありがとうございます。なんかお礼をしないといけませんね……」
「いいよ。別に。退屈しのぎにはなるからさ」
「いいや、そうはいきません。今日は、この後大事なテストがあるので、奴らから解放されたというメリットは相当大きいですよ。もし、よければ連絡先を交換させていただいてもよろしいでしょうか?お礼と証言は後日ということで」
生真面目にスマホを取り出して、「相模 昴と申します」と少年は名乗った。
「小山 明日香です」
明日香も自分の名前を名乗って、念のため奴らが来ていないかどうか確認しつつ彼を塾に送って明日香は家に戻ることにした。