平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「そう。もう五年も狙われ続けている。私が無事に生きていられるのは、ラウリとニコ、宮殿の者たちのおかげだ。しかし、それに甘んじて生きてはいられない。密かに身体を鍛え、刺客に殺されないように強さを身につけたんだ。サクラはよくわかったな?」
「あのときはわからなかったけれど、今朝起きたら、ディオンさまの動きが俊敏だったことに気づいたんです」
 
 五年間も狙われ続けている生活はどんなに大変だっただろうと、桜子の顔が歪む。

「昨日のことでは、そなたを大変恐ろしい目に遭わせてしまった。私が刺客を処理するわけにはいかないんだ。宮殿にルキアノスの手の者がいる」
「これからもずっと……狙われ続けるんですか……? どうして皇帝は執拗に狙わないとならないのですか?」

 刺客にディオンが殺されるところを想像してしまい、胸がひどく痛んで、桜子は手を置いた。

「私が前皇帝の息子で、正当なベルタッジアの皇子だからだ。ルキアノスは前皇帝の妹・ララ皇女の夫だった。ララ皇女が病気で亡くなり、ルキアノスは皇帝の地位と私の母を奪ったんだ」

 ディオンの指先が桜子の顎に触れる。アメジスト色の瞳が、桜子の黒曜石のような瞳と視線を合わせる。目頭が熱くなり、瞳に涙が溜まっていた。

「そんな顔をするな。私は大丈夫だ。しかし、昨日のサクラには驚かされたな。本当に勇気があり、強い」

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