平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 医者に診せるのも恥ずかしいくらいの、擦りむいただけの怪我である。

 しかし過保護すぎるディオンは、治療の間、ひとことも発さず見ていた。見ているというより、終始監督をしているといった風である。
 
 裸足はザイダが綺麗に拭くときも、ディオンは微動だにせず、少し離れたところから腕を組んで視線を桜子にやっていた。

「殿下。サクラさまのお怪我に薬を塗らせていただきました。数日は動かすたびに痛むかもしれません」
 
 医師の言葉に、桜子は顔を顰める。

(そんなこと言わなくていいのにっ)

 余計にディオンが不機嫌になるだろうと思った桜子は、急いで取り繕う。

「全然痛くないです。先生、ありがとうございました!」

 桜子は椅子から立ち上がり、ヒリヒリする痛みを無視して、平然とした顔で医師にお礼を言った。

「また明日も診るように」

 ディオンは医師に指示をする。


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