平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 今朝の出来事から、桜子の耳に美しい音色は聴こえてこない。ディオンが楽器を弾いていないのだ。

(怒ってる……?)

 過保護すぎるのは、価値観の違いなのだろうか。

(これくらい、たいしたことないのに……)

 椅子に座っている桜子は、長いエメラルド色の衣装を持ち上げ、膝小僧を見る。よく動かすところのせいで、擦りむけたところはまだ赤みを帯びていた。

(ニコさんは叱られなかったかな)

 そんなことを思いつつ、ディオンが今なにをしているのか知りたい桜子である。

「サクラさま、カリスタさまがおいでになられました」

 ザイダの後ろから、カリスタがゆっくりとやってきた。

「カリスタ、少し顔色が悪いみたいです」

 昼食後のいつもの文字書きのレッスンだが、カリスタの顔色が気になった。先日も、イアニスがお酒を飲まないように注意していたのを思い出す。

「大丈夫だよ。サクラと話をする機会までもなくさないでおくれよ」

 椅子に腰を下ろしたカリスタは、皺のある顔を緩ませる。

「無理はしないでくださいね」

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