平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「サクラの好きな料理を用意させた」

 ディオンは桜子を座らせてから、隣に腰を下ろす。それが合図で、女官たちが飲み物や料理を運んできた。

 桜子はいつものように明るく振る舞いたいが、この後のことを思うと、緊張してしまうのだ。

 桜子は今夜、ディオンに愛してもらうつもりだ。妻になるだけで、ディオンは待ってくれるだろう。しかし、桜子の決心はディオンを裏切るものだった。
 
 自分のためにディオンがルキアノス皇帝に歯向かったならば、彼は逆賊として殺されてしまう。

 アシュアンの兵士が戦ったとしても、皇都の兵士の数十分の一しかおらず、全滅も免れない。自分のためだけにそんなことになってほしくない。もともと自分はこの世界の者ではない。犠牲者を出してはいけないのだ。
 
 桜子はルキアノス皇帝の元へ行くつもりだ。
 
 スケベ爺にバージンを奪われるのなら、ディオンに愛してもらいたかった。

「サクラ? どうした?」
「えっ? いいえ……」
「この後のことが心配なのか? 私はそなたの気持ちを尊重する」

 ディオンは優しい笑みを浮かべて、桜子の気持ちをほっこりさせてくれる。

 桜子は首を横に振る。

「私は……ディオンさまに愛してほしいです」

 自分からディオンに顔を近づけ、驚きを隠せない唇にキスをした。

「サクラ、一度そなたを奪ったら、絶対に手放さない。どこにも行かせない。いいんだな?」

 桜子からのキスは、ディオンに主導権が移り、甘く唇を食んだ。
 
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