平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 翌朝、ふたりは朝食を仲睦まじく食べていた。

「サクラ、今までの人生の中で一番幸せを感じている」

 ディオンは赤い色のフルーツジュースを口にする。

「はい。私も……とても幸せです。ディオンさま」

 ディオンが飲んでいるジュースには、桜子が眠れないと言って医師からもらっていた薬が入っている。上手く効けば眠気に襲われるはずだった。上手く効いてくれないと困るのだが。

 桜子はディオンが薬で休んでいるうちに皇都へ行き、ルキアノス皇帝に会うつもりだ。ディオンとアシュアンの民を助けたかった。

「ディオンさま、パンも食べてください」

 桜子は丸いふっくらしたパンをディオンに差し出す。

「ん……どうしたのか……急に……眠気が」

 桜子からパンを受け取ろうとした手が下がる。

「どうして……?」

 ディオンはものすごい眠気に襲われ、ハッとなったときにはすでに遅く、崩れるようにしてクッションの上に倒れた。

「ディオンさま、ごめんなさい……」

 桜子は泣きそうになりながら、深い眠りに落ちたディオンにキスをして立ち上がっる。

 ディオンの顔を記憶に留めておくように何度も振り返りながら、扉へ向かった。廊下に控えている女官に近づく。

「ディオンさまはやることがあるので、午前中は出てくるまで邪魔をしないでほしいとおっしゃっていました」
「かしこまりました」

 女官は身体の前で両手をクロスさせて、膝を折った。

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