青と雲
「なんなの、これ!」
玄関の方からお母さんの悲鳴が聞こえる。
ああそうか、姿見がないんだもんね。
疲れ果てた頭で考える。
「ごめん、わたしがうっかり割っちゃって」
「ああもう!
なんでこうなるのよ!」
「ごめんなさい、本当に」
こうやってとりあえず謝っておけばお母さんの怒りも鎮まる。
平謝りが怒った人間にはいちばん効くのだ。
まるで精神安定剤のように。
「あんたが騒ぐからこんな手紙がポストに入ってるんじゃない!」
「え?」
「うっかり割ったんじゃないんじゃない!」
「どういうこと?」
「隣の斉藤さんからよ!
ガラスを割ったような物音が聞こえるけど、家庭環境に問題があるの?って!
ありえない!
うちには問題なんてないのに!」
遂には目の前で泣き崩れる始末だった。
思わず吹きだしてしまいそうになるのをすんでのところで我慢する。