No border ~雨も月も…君との距離も~
15章 不協和音
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最愛の友人であり……弟分であり……心のどこかで 年下なのに 頼ってた…

そんなタクちゃんを 突然亡くした日から……シンは、しばらく音ではなく…音階になった世界をさまよっていた。
後に…彼は 私にそう言った。

せわしない足跡。

誰かの止まらない泣き声。

BIG4の入口に 響く…叫び声。

流れる…お経。

告別式でのashの曲……。

音も曲も、言葉さえも…冷たく無機質に奏でる音階になって、シンの頭の中を巡って…

彼を 苦しめた。

彼にしか 分からない…絶対音感の一人ぼっちの世界。

こんなもの…いらない。

世界は…不条理と不協和音に まみれてる…。

月の音も…雨の和音も……俺を苦しめるから……

こんなもの、いらない。

シンは、そう言って 言葉にならない自分の声にさえ、耳をふさいだ。


鈴ちゃんは…病院で半狂乱のタクちゃんのお母さんと一緒に、タクちゃんの全身を撫でた。

冷たくなっていく 彼が……寒くならないように。


お通夜もお葬式の間も、ずっとずっと タクちゃんの側から離れずに……

棺の中の 動かないタクちゃんの頬を 鈴ちゃんは撫で続けた。

2日、3晩……眠ることを忘れて、鈴ちゃんはタクちゃんを 抱きしめた。

だから……

だからだと思う……

斎場での 最後の別れまで、タクちゃんの頬は……

柔らかいままだった。

硬直せずに……

今にも 瞳を開けてくれる……そんな風に。

綺麗な肌色。

18歳の少年のまま……

まだ、 18歳だった。
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