No border ~雨も月も…君との距離も~
テーブルに正座した私の前に、翔平君はティーカップを差し出す。

「 ねぇ……翔平君。私はシンと翔平君は二人でひとつだと思うのね。

どちらが……とか、そういうの…違う気がするの。」

私は 手に持ったティーカップを 受け皿に置き損ねて…熱湯が飛び散る。

なんだか…動揺していた。

「 熱っ……!!」

「 ……あっ!! 大丈夫っ!? こっち来てっ! 」

「 大丈夫っ! 大したことないよ…。落ち着きないね、私。(苦笑) 」

私は 左手の甲を押さえる。

「 ダメだよっ! 早く こっち、冷してっ!」

翔平君は、強引に私の手首を引くと そのままバスルームの扉を開けた。

急いで シャワーの蛇口を回すと、勢いよく水が流れ出て 私の手の甲で跳ね返る。

四方八方に飛び散る 硬いくらいの冷たい流水に、私は吐く息を 忘れそうになる。

翔平君のTシャツも 私のシャツも…みるみる飛び散る水滴で色が 変わり始める。

流水の流れに 引き込まれそう……。

翔平君の ギターを弾く腕は筋肉に何本ものスジがバランスよく浮き出ていて 男らしさに…思わずドキッとする。

すぐ傍にある 翔平君の横顔に、途方もない色気みたいなものを感じて 少し驚いた私は 自分の手を引っ込める。

「 あっ……。ごめ…ん。」

翔平君は 私の手首を離すと、アッシュゴールドの前髪をかきあげて…こっちをじっ…と見つめる。

「 ねぇ。翔平君、さっきの話…翔平君がいないとシンは歌えない。
翔平君が いるから 輝ける。

月が……嫌いなクセに……

シンは、月みたいな……。」

「 もう…もういい。 もう言うなよっ!」

「 …………。」

私は 近すぎる翔平君から 立ち上がる。

距離を……作らなきゃ……

「 俺の女になってよ。

そしたら……シンの所に 戻るよ。」

そう言うと 翔平君は 濡れたままの 私の両手首を掴むと、立ち上がって…唇を強く重ねてきた。

「 …………っ!! 」

壁に 背中を這わせて 身体をよじる私に、翔平君の身体が覆い被さる。

身動きできない私に 翔平君の唇が…なおも強くなる。

えっ……怖い。

うそ……シンっ……

もがけば…もがくほど、翔平君の腕に力がこもる。
メキッ……とシャツの生地が 軋む音に、私は必死でその胸元を押さえる。

「 は……っ。離して……翔平君…! 」

声にならない声で 抵抗しようとするが…身体に力が入らない。

恐怖から…腰から力が抜けて床に崩れる。

逃れようとすれば するほど、思うように前進できず、翔平君の腕に引き寄せられる。

こんなにも非力な自分に 改めて驚く…

……助けて……

「 ……なんでっ!!なんでっ!!あいつなんだよっ!!」

「 ……お願い…翔平君。離して…」

私の視界が ブレたカメラのように 激しく歪む。

……助けて……シン…

目頭が熱くて…涙なのか、それとも血?そのくらい熱くて…目の前が真っ暗になる。
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