No border ~雨も月も…君との距離も~
19章 命
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「 オープン……いつですか?」

新しいお店の内装に張り巡らされた 白木の香りが 表の扉が開くたびに 揺れる。

私は 引っ越し用の段ボールを床に置くと、汗ばむ額を手の甲で 押さえながら 声のした方へと 顔を上げた。

「 鈴……ちゃん。」

喜びのあまり 声が上擦ったまま彼女に両手を広げて駆け寄った。

「 ただいま……って 言っていいのかな。

季節がひとつ…変わるまで 泣き続けたら、そしたらね……

涙が 壊れそうになった。」

「 ………………。」

私は、黙って何度でも 頷く。

「 このままじゃ……嬉しい時とか、感動した時のための涙まで なくなっちゃうって……そう思ったの。」

私は、彼女の言葉に ひたすら頷いて……

「 鈴ちゃん。 逢いたかった…。」

と 呟いた。

私と鈴ちゃんは、どちらかともなく お互いを抱き締めた。

「 ……紗奈。

涙が 壊れそうで……心が壊れそうで……

なのに……

それなのに……

不思議だね。

怖いはずなのに……タクとの思い出に 逢いたくなったの。」

「 うん…………。

鈴ちゃん、うん……そうだね…… 」

泣かずにいる鈴ちゃんの肩で、私の涙がバカみたいに流れる。

逢えたことの喜びと 彼女の苦しみに 情けないくらい対応できない自分に…バカみたいに 泣けてきた。

「 タクと 歩いたこの街を、もう一度 歩きたくて。」

「 …………。」

「 紗奈……。付き合ってくれる?」

「 いいの? 私で。 タクちゃんとの思い出…でしょ。」

「 ……タクの、話を聞いてくれる?」

「 (泣笑) もちろん。 鈴ちゃんの気がすむまで…。」

「 (笑) ぜーーーんぶ、ノロケだよ。」

「 覚悟しとくよっ。(笑) 」

私が 涙のせいで鼻まで赤くしている様子を見て、ママはティッシュの箱を すぐ側の カウンター席に 置いてくれた。

「 後は……ボチボチやっとくわよ。」

「 でも……ママ。」

「 開店したら、大変なんだから~っ! 今のうちっ。

天気もいいし、デート日和だよ~♡ 」

「 ……ありがとうございます。」

鈴ちゃんが 遠慮する私の代わりに 頭を下げた。

「 本当に……ありがとうございます。」

「 その代わり…と言っちゃなんだけど。(笑)

行ったお店や デートスポットに、このビラ配って来てくれる?

リニューアルオープンのお知らせね!

宣伝のお仕事~♡ 忘れずに~っ(笑) 」

ママは私に ビラの束を握らせると ニッと笑って、ヒラヒラと手を振って 真新しい厨房に消えた。

ママは 私にとって憧れの女性。

いつか こんな風に さり気ない優しさで 人を思いやれる女性(ひと)になりたい。

優しく頬を撫でて…通りすぎる涼しげな そよ風のような……

そんな女性になっていたい。

いつか……。
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