No border ~雨も月も…君との距離も~
「 ここに タクはいない。わかっているけど…。」

そう言って 鈴ちゃんは BIG4前の交差点に 花を手向けて 手を合わせた。

「 ここは 一番怖い場所だけど……一番 いい思い出が沢山ある場所だから……。」

「 うん。そうだね……

いい思い出の方が 沢山ある。」

私と鈴ちゃんは 陽が沈んだ残りの太陽の余韻に、立ち尽くして…しばらく 車の行き来する 交差点を見つめた。


私たちに……明日は来るはず……。


タクちゃんも、あの日 そうやって 何の疑いもなくBIG4を出た。

明日が……来る。

誰だって 普通なら、そう思って生きてる。

今日という一日が どれだけ 大切なのか……。

あの日、タクちゃんの命が教えてくれた。


私と鈴ちゃんは 相変わらず 少しの風圧にも軋む BIG4の扉を押した。

久しぶりの この空間……

煙草のヤニで 黄色くなった壁紙も、片付かない音楽誌がつまれた本棚も…4ヶ月で 変わるはずもなく、
やっぱり 落ち着く。

「 おおおーーーーっ!! 二人ともっ!
どうしたっ~! おかえりーーーー!! 」

「 小川さん、お久しぶりですっ!」

「 ただいまっ。小川さんっ!」

店長は 受付のカウンターで足を組んで アコギをかかえていた。

二人に気づくと くわえていた煙草を 揉み消して 笑った。

「 二人とも……少し痩せた気もするけど、元気そうでよかった。」

BIG4の 掲示板は まだashのポスターが何枚も飾られたままで、その伝説を偲んでいた。

「 ashの インディーズのCD……売れるんだよね。

日本中から…問い合わせがある。」

「 そっか……。嬉しい……。」

鈴ちゃんは ポスターのタクちゃんを 指でなぞる。

懐かしいBIG4の匂いに 包まれると 眩しすぎた日々に……やっぱり しがみつきたくなる。

前へ……前へ……

そう思いながらも ashに逢いたくなる。

ある日の ashの スタジオ風景が 目に浮かぶ。

シンとタクちゃんが…わちゃわちゃ絡まって、

翔平君は そんな二人に 突っ込みながら……結局、自分も わちゃついて……タケル君は 呆れながらも、ダメ押しに……わちゃつくっていう……。(笑)

そんな 4人を見ながら、私と鈴ちゃんも笑ったっけ。
(笑)

「 バッカじゃないのぉ~(笑) 」

「 犬……4匹っ(笑)!!? 」

って……笑ったっけ。

最後は、夏香さんの 一声。

「4人ともっ!! 早くスタジオ戻って。 すぐよっ!
いつまで、絡まってんのっ~!」

……って。


私と鈴ちゃんは、ホールへ続く 薄暗い階段を 上った。



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