No border ~雨も月も…君との距離も~
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月の夜が……怖い。


あの日の夜を 思い出すから……。


月は 全てを見ていて、全てを知っているくせに

黙ったまま。


こっちを じっと見て……笑う。


せせら笑う。


「 シン、 明日のお弁当……卵がないの。
卵焼き 無くてもいい? 」

「 あぁ~。 うん。いいよ~ 」

イヤホンを耳から外さずに、曲を聞きながら……生返事をしたのが 母との 最後の会話だった

あの頃……誰よりも母に愛されていると思っていた。

今でも……

それは 変わらなくて……そう思って、それが唯一の自己肯定になっている気がする。

ただ……

彼女にとって、生きていくには……僕の存在はそれほどの ものではなかったのか?

僕を愛することより……

父に愛されることが、彼女の生きていく糧だったのか……

それが、今でも自分の存在を弱くして……

悲しくさせる。


あの夜の “ 真実(本当) ”は、月と…母にしか 分からない。

卵が無いと言って 冷蔵庫を覗き込んでいた母は、その晩 やっぱり コンビニに卵を買いに行っていたらしい……。

少しのお酒と薬を飲んで、

彼女はその後……

何の前触れも無しに、死んだ。


彼女が死んだ夜を 見ていたのは、大きな……満月だけ。


SEX PISTOLS シド.ヴィシャス。

彼が死んだ夜も……

恋人の ナンシーが殺された夜も……

真実(本当)を 見ていたのは、

月だけ……なのではないかと。

月の視線が

とても……怖い。

愛してたのか……憎んでいたのか……それとも、偶然の事故なのか……?

もしかして……二人の計画的な、ドラマティックでクレイジーな死のシナリオ?

完璧な劇的な死を

月は……黙って、許した。


次の日、

僕に弁当は なかった。

卵焼きではなくて、弁当 その物が 無かった。

冷蔵庫で、コンビニの袋に入った卵を見つけたのは それから 随分 日が立ってからのことだった。

父は 薬を間違って飲みすぎた事故だと……14歳だった僕の肩を抱いたけれど、何気なく見てしまった母の死亡診断書には “ 自死 ”の欄に丸が付いていた。

それから 半年後……。

僕に妹が生まれた。

もちろん……母は 死んだのだから、生んだのは別の人。

母が死んだ夜、父はいなかった。

たぶん……

だから僕は 月も、月の夜も……キライ。

全てを見ていて……

知っていて……

真実を知りたいと思う 僕を、バカにして笑う。

きっと 永遠に分からない。

そんな真実に、もがく僕を 面白がってる。

月夜の晩に……

夜になると……

僕は、女の人を抱けない。

月のせいか…?父のせいか…?母のせいか…?

病気だ。

軽い……持病。

怖くて……人知れず 震えるのだから……。

けれど……

母が残した、コンビニの袋に入った卵が……
最後の会話が……くだらなすぎたから……

今、こうして…生きてる。

こうして…笑っている。

こうして…歌っているんだ。

いつか、あの月を消せるほどの朝日になりたい。

朝日の中で、僕はいつも救われる。

朝の光は、僕にいつも許しをくれるんだ。


シド・ヴィシャスに…聞いてみたい…。

ナンシーと一緒に眠らせてと、遺書を残した君も

本当は………。


朝日を 探していたの?







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