No border ~雨も月も…君との距離も~
1ヶ月が経っても、ashの ウェディングソングの動画再生回数は 延び続けた。

メンバーそれぞれの インスタやTwitterにも コメントが益々 増えた。

シンとタケル君は 夕方の県内情報番組にも、ここ最近では レギュラーかのように 出演させてもらっている。

県内のイベント情報を伝えるだけだったはずが…今では、タケル君に関しては 食レポまでするよう
になっていた。

地方の番組で、ashを見ない日は無い。

彼らは…この街の 小さな輝き…。

儚くも、大きな希望でもあった。

シンのバイト先のスタンドにも ファンの子が ワザワザ 遠くからガソリンを入れに来たり……
大胆にも、ガソリンはいらなくて シンに会いに来たり……。

向かいのファミレスには 写メを撮るための 専用の窓際席まで(苦笑)出来てしまったらしい。

私は、シンとの約束の日は 自然とファミレスから避けるように 裏道に車を停めて 彼を待つようになった。

もう……スネたりなんかしない。

シンの 自由のために、必要な事だと理解した。

シンが 懸念していた通り…私たち2人の自由を探すことは、こんなに小さな街だからこそ 難しくなってきた。

たとえば……

2人の映画は、開演ギリギリで シンが先に入って、私のチケットを もぎりのお兄さんに預ける。
時間をあけて 私は中へ入った。

そして、さりげなく シンの隣に座る。

毎日 2人 同じ部屋に帰るというのに こんな時は なぜか……

やっと シンに会えたような気がして……。

久しぶりに 彼の手に触れたような気がして……。

暗がりの中、スクリーンを見詰めながら シンの指を何度も重ね合わせた。


そして、外食は 全くと言っていいほど 出来ない。

たまに、一緒に食べれる夕食は 2人で台所に立った。

つまみ食いをする シンのせいで、カラアゲは半分に減ってしまう。

手伝っているのか……邪魔をしているのか……?

私の背後から腕を廻して じゃれてくるシンに、くすぐったくなって ……終いに 叱りながら、首の後ろを思いっきりくすぐる。

弱点。(勝)

そう……シンの喜ぶ顔が見たくて 次回のレシピをまた、考えてしまう。


たまに 2人で外に出たくて、真夜中のコインランドリーに通った。

シンは スウェットの上下に ニット帽、顔が半分隠れる程の大きめのマスク。

私は、シンのシャツを借りて…彼の大きめの サンダルを ひきづって歩く。

誰とも すれ違わない……こんな夜は、

たぶん、世界が 2人を忘れてしまったんだろう。

シンの笑顔が そこにあるなら、2人ぼっちの世界が…愛することを自由にした。



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