No border ~雨も月も…君との距離も~
「 早く 東京を知りたくて……自分の知らない自分を見てみたくて、
新しい環境で、今 すぐに歌いたいって……
そう 思っていたのに……。」

トクン……。

「 寂しいんだ。
情けないから 言わないでおこうと思ったけど、
今、 たった今……すごく、寂しいんだ。」

「 同じ……。同じだよ。
寂しくて、泣きたくなる……。」

私は、振り返って シンの胸に額をつける。

彼の手のひらが、私の髪に触れて……シンの匂いがする……。

首筋に唇を寄せると、甘酸っぱい柑橘系の香りとは うらはらに 汗の味がする。

お互いを 慰めるようなキスは ……強くなればなるほど 泣きたくなった。

激しくなればなるほど……寂しくなった。

こんな風に、身体を寄せても 現実は変わらないのは知っていたけれど、

そのまま……二人で寂しくなくなる方法を探す。

シン……どうしたらいい?

大好きな時も、寂しい時も ……私は 抱きしめることしか できない。

触れる……ことしか できない。

シングルのマットレスに倒れ込んだはずのそこは……段ボールだらけで いつも以上に、狭くて…。

私の 早くなる鼓動がきっと……聞こえてる。

ざわつく全身を隠しきれなくて、それと同時に……シンの呼吸も 激しく乱れていくのが 分かる。

寂しいと感じれば感じるほど……泣きたくなるほど 欲しくなる。

何かに 取り憑かれたように、私に触れるシンが同じように 寂しさを振り払おうとしているように感じて……やっぱり “ どうしたらいい? ”と聞きたくなる。

私は、開け放たれた窓辺に 手を伸ばす。
モスグリーンの 二人で選んだ カーテンにやっと指先が触れて……勢い任せに 半分 閉める。

それに 気づいた シンが もう半分を やや乱暴に閉める。

シーツの擦れる音とお互いを 探り合う音が、初夏の熱気に混じり合って 身体中に巻き付いてくる。

言葉なんて……いらなくて。

温もりぐらいじゃ 足りなくて……。

優しさよりも……本能の方が、今は 本物で……。

汗ばむ首筋に 髪の先が貼り付いて 払うたびに喉の奥から 声が漏れる。

シンの体温が私に重なる。

近すぎて 彼の表情が見えないから 触れて…みる。

瞼……。

鼻筋……。

耳たぶ。

唇……。

それから……。

ひとつ ひとつに触れたい私に、シンは もどかしそうに 私を強く、きつく…抱きしめた。


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