エリート御曹司は獣でした
勝手に熱くなる頬と、時々触れ合う腕を気にしていたら、リズミカルに包丁を操る彼が、「ありがとう」と穏やかな声で言った。


「え……?」

「誘ってくれてありがとう。社内では聞けない話が聞けて、新鮮な気分。こういう集まりは、楽しいんだな」


卵三個を割りほぐしたボウルから、彼の顔に視線を移し、私は鼓動を跳ねらせた。

一旦手を止めた彼は、熱っぽく潤んだ瞳に私を映している。

それはビールの影響に違いないが、まるで恋人に向けるような甘い視線に感じてしまい、ときめかずにはいられなかった。


久瀬さん、期待しそうになるので、そんな目で見ないでください……。


恋へと走りそうになる自分の気持ちに、慌ててブレーキをかけ、私は視線を手元に戻す。

菜箸で必要以上に卵をシャカシャカとかき混ぜながら、冗談めかして言った。


「お礼を言うのは私の方です。久瀬さんが参加表明してからというもの、私は英雄扱いですよ。お礼にって、可愛いタオルハンカチまでもらっちゃいました」
< 116 / 267 >

この作品をシェア

pagetop