エリート御曹司は獣でした
なにかを取り出したように見えたけど……。

首を傾げた私と向かい合わせの姿勢を取った彼は、真顔で「じっとしていて」と指示をする。


「はい」


なんの気なしに返事をした直後に、私は目を見開いた。

久瀬さんの大きな手が私の頬を包んで、唇が重ねられたのだ。


至近距離にある切れ長の涼しげな瞳は閉じた瞼に隠され、スッとした高い鼻が私の頬に触れている。

驚いて思いきり息を吸い込めば、シャンプーか整髪料の爽やかな香りが鼻孔をくすぐった。

私の鼓動は爆音で奏でられ、一ミリも動けずに固まるのみ。


く、久瀬さんに、キスされてる……。


ポン酢で変身した時には、毎回キスされているけれど、正常な時の彼とは初めてで、意識の全てが重なる唇に持っていかれる。

どうしてなのか、狼化した時の彼と唇の感触が全く違う気がしていた。

変身中の彼の唇は、柔らかさや潤いが感じられたのに、今の彼の唇は乾いていて、やけにスベスベした部分と、ペタッと貼りつく部分にはっきりと分かれていて……。


あれ、なんか変じゃない?


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