エリート御曹司は獣でした
唇を噛んだ私は、久瀬さんに失礼なことを言ったと気づいて反省していた。

事業部は総勢、百五十人ほどの大所帯だ。

美人な女性社員には過剰なほどに親切で、私のように平凡な容姿の者には冷たい態度を取る男性社員が、残念ながらいる。

久瀬さんはそういう人とは違い、誰に対しても誠実で紳士的である。

そんな彼をすぐそばで見てきたというのに、現在の小百合さんにがっかりしてほしいなどど、浅はかな考えであった。


謝って俯いた私が、すっかり冷めてしまったチキンをモソモソと口に運んでいたら、思いがけない言葉を聞いた。


「会いに行こうか」

「え……?」


驚いて久瀬さんを見れば、彼はテーブルの上に組んだ両手をのせ、爽やかに微笑んでいる。

私の提案は却下の流れだったはずなのに、どうしてそんなことを言うのだろう。

不思議に思う私に、彼は穏やかな声で言う。


「あの出来事があって、俺は逃げるように宮永家との関係を切った。世話になったのに、失礼なことをしたと気に病んではいたんだ。治療法としてはどうかと思うが、小百合さんには会いたい。疎遠にしていたことを詫びに行くよ」

「そう、ですか……」


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