恋の神様に受験合格祈願をしたら?
「でもさあ、色々許せないよね」
 ハルちゃんが頬を引きつらせた。
 ヤバい。
 これって、ハルちゃんが内心かなり怒ってる証拠だ。
「だよねえ。まずさあ、今、ここに牽制役となる生徒会メンバーが誰一人来ないことが大問題なのよ。メガネ美人はいいわよ。気が合ったし、絶対に仲良くなれる自信があるし。今ここに美人がいても、役に立たないからさ。あの副会長、爽やかに『放課後、教室に迎えにくる』なんて言ってたけど、放課後じゃ遅いの。今、この状況をどうにかしろっての!」
 リカちゃん、声が……声が大きすぎるよ。
 クラス内だけならまだしも、覗きにきてる先輩たちにも聞こえちゃう。
 リカちゃんの言ってる意味が全然わからないまま、私はオロオロした。
「えっと……あの……生徒会だから……きっと何か色々と忙しいんだよ。ねっ? ハルちゃん」
 私はハルちゃんに助けてと視線を送った。
 リカちゃんが怒りをぶつけるように、おにぎりのテッペンを大口で齧った。
「これで終わるなら、まあいいんだけどさ」
 リカちゃんが、咀嚼しながら口を開く。
 食べているから、少し声が抑えめになっている。
 行儀が悪いけど、リカちゃん、今日だけは食べながら話してください。
「パンダはそのうち終わるでしょう。興味本位で顔を見にきただけなら目的達成だし。けど、それだけじゃない人たちが問題なのよね。ヤバそうな目つきの人がチラホラいたから、要注意よ。そんなわけで、ニコは当分校内で1人になっちゃダメだからね」
 ハルちゃんは私に「いい?」と念を押してきた。
 有無と言わせない迫力に、私はどうして1人になっちゃダメなのかわからないまま、コクコクと頷いた。
 途端、ハルちゃんが笑顔になった。
「その玉子欲しい。今日はハムチーズとシーチキンしかないから、1個ずつどう?」
 ハルちゃんが、リカちゃんにランチボックスを差しだした。
「ラッキー!」
 リカちゃんが、タッパをハルちゃんに向けた。
「おでんの玉子って、ダシもミソも美味しいよね」
 ハルちゃんがフォークで玉子を差した。
「やっぱ悪化するよねえ」
 リカちゃんがハルちゃんにつらそうな顔をした。
「その気持ち、よくわかる。過去のトラウマが疼きながらよみがえるのよねえ」
「過去だけどさ、やられたほうは過去にできないんだよ」
「私、ニコと会うまでつらかったもん。ニコと会ってからも薄っすら続いてたけど、ニコがいい意味でニブニブだから、本当に救われたもん」
 ハルちゃんがしんみりする。
 私とハルちゃんが出会ったとき、何かあったっけ?
 クラス替えがあった小学5年生のときを思いだしてみるけど、ハルちゃんという親友が出来た以外でいいことは思いつかない。
 悪いことは……運動会の練習中、ハルちゃん以外のクラスのみんなに『なんでお前が同じクラスなんだよ』って顔をされた記憶がよみがえってきた。
「私は中学のとき、部活で先輩から色々ね。嫉妬や集団って怖いからさ」
 2人が困った顔に笑みをにじませた。
 そして、一緒に手を伸ばして、私の頭を撫でてきた。
「護るからね」
 ハルちゃんと、
「1秒も離れるなよ」
 リカちゃんが真っ直ぐに私を見つめる。
 2人が何を考えているのかわからないままだけど、2人が私を大切に思っているのはしっかりと伝わってるよ。
 だから、私は「うん」と笑顔で返事をした。
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